「ピアノを弾くと頭が良くなる」と、以前からよく耳にします。
某バラエティ番組で有名になった脳科学者のS先生も似通った事を統計結果として発表しておられましたね。
S先生曰く、「ピアノを演奏することによって、問題解決能力や社会性、又は創造性など人生の成功に関係する全ての基礎となる能力が伸びる」のだそう。
しかも、その効果は他の習い事では見られないというのですから、ピアノ教室を営む者としては有り難い発言です。
けれど、山岸麗子著「あたまで弾くピアノ」を読むと、事はそう単純ではないと気づかされます。
例えばピアノを弾く時の脳の働きに、二通りの使い方があるということをご存知でしょうか。
目に見える部分では、どの子も同じように指を動かし音を出しているにも拘らず、その内側では全く別の頭の使い方をしている、ということを。
しかもその頭の使い方によって、お子さんの未来が大きく変わるのだとしたら、それは無視できない問題ですよね。
実は、ピアノを弾く人には “自分の欲する音をイメージし考えてから音にする人”と、”ただ楽譜に書いてある事を機械的に音にする人”がいるのです。
そして、両者の使う脳の領域は全く別だということが分かっています。
前者は脳の前頭葉と呼ばれる領域を使い、後者は運動連合野という領域を使って演奏をしています。
前頭葉とは、人間のもっとも大切な意欲、創造、思考、選択などをつかさどる部分であり、運動連合野とは、運動の順番を組み立てる場所です。
そしてピアノのお稽古の場合、そのほとんどの人が運動連合野のみを使って演奏しているのだそうです。
又この運動連合野のみを使って演奏している人、つまり楽譜に書いてあることをただ鍵盤に置き換えるだけの人は、いつまで経っても生徒から芸術家へと進歩できない、つまり音楽的な自立ができないと言うのです。
家では譜面通り弾けるように練習するだけで、音楽表現をするのは先生に指導されてから、という人は、まさにその典型と言えます。
逆に、心に「欲する音」を持ち、その「欲した音」を実現しようと頭が指先に命じることで音を出す人、つまり前頭葉を使って演奏しているお子さんの場合はと言うと・・・
“子供の時に前頭葉を働かせて手を使うことが、知能の発達を促進させ、創造的に生きる人間を作っていくと言われている” (「あたまで弾くピアノ」より)
とするならば、これが本当の意味で「ピアノを弾くと頭が良くなる」という事なのではないでしょうか。
自分の演奏について具体的にジャッジできるお子さんと満足にできないお子さんがいるのは、もしかしたらこの演奏中の頭の使い方の違いに原因があるのかもしれません。
さらにこの事は、年齢が行けば行くほど矯正が難しく、例え後年心に奏でたい音のイメージを持つことが出来ても、その時には既にそれを指で表現する術が分からなくなっているため、その指と心がつながらない状態によって奏者は苦しむことになるのです。
しかもこれら間違った頭の使い方を生み出しているのは他ならぬ我々指導者と言えます。(自分で書いていながら耳が痛いです)
生徒さんが何のイメージも持たず”指”先行で音を鳴らすことがないように、子供のイマジネーションを高め、楽譜への理解を深め、まずどんな音で弾きたいのかという意識を持たせるレッスンを、今一度しっかり考えていかなければいけないな、と思っています。