モンクールのプログラムの中から2曲目の紹介です。
千住明作曲、ピアノ協奏曲「宿命」。
この曲は、松本清張の長編推理小説「砂の器」のテレビドラマ化された作品のうち、2004年中居正広主演で放送された番組の挿入曲として使われたものです。
ドラマは、過去を封印するため偽名を使って音楽活動をしていた中居正広扮する天才ピアニスト和賀英良が、その過去を知る男を勢いあまって殺してしまうところから始まります。
捜査は難航、けれど最終的にその隠された過去が暴かれ、ついには捕まるといったお話です。
私はこのドラマを観ていないので、残念ながら感想を書くことはできません。
では肝心の音楽はと言いますと・・・
ピアノ協奏曲とあって一見クラシック音楽風ですが、どちらかと言えばポピュラー色の濃い曲だと思います。
それだけにそのメロディーや和声は大変分かりやすく、ダイレクトに心に響くものとなっています。(ちょっとばかりメロドラマ調でしょうか)
作曲家の千住明氏です。
千住家と言えば、何と言っても芸術家三兄弟。
長男 千住博氏は、聚光院別院襖絵( ウォーターフォールシリーズ )で有名な日本画家。
ヴェネチア・ビエンナーレの優秀賞他、数々の賞を受賞しています。
末っ子 千住真理子氏は、史上最年少15歳で日本音楽コンクールに優勝したヴァイオリニスト。
そして「宿命」を作曲した次男 明氏です。
千住明氏は、慶應大学工学部を中退、その後東京藝術大学作曲家に入学。
卒業時には、終了作品「EDEN」が史上8人目の東京藝術大学買い上げとなり、その資料館に永久保存されることとなりました。
その後は、編曲やプロデュースで活躍。
特にドラマ音楽を多く手がけ、「映像音楽の魔術師」と称されることもありました。
3人揃って第一線で活躍する芸術家・・・
才能豊かな兄弟がどのような幼少期を送ったのか、今一度読みたくなって引っ張り出してきました。
三兄弟の母 千住文子さんの本です。
私が一番興味を惹かれたのは、母娘で闘った初めてのコンクール顛末記でしょうか。
コンクール参加のきっかけは、当時の先生から「賑やかしにニコニコ笑って出てちょうだい」との勧めがあったからでした。
「賑やかし」というのは奇異な表現ですが、子供より親の方が夢中になってしまうコンクールの風潮を危惧し、そこに一石を投じたい、という先生の思いから出た言葉だったようです。
先生の勧めに従って恐る恐る足を踏み出した千住親子。(先生の言った「賑やかし」というのは方便で、やはり才能の萌芽を幼い真理子さんの中に見てとったのだとは思いますが・・・)
とは言え、現実問題技量が他の出演者と比べて甚だしく劣っている娘、そんな我が子を前にしてその事に悩む母親に、「遊び半分ならやめろ。何事も真剣にやることが大切なのだから。その結果など問題ではない」という父親。
そこから始まる親子一丸となった並々ならぬ努力の日々。
そしてついにその努力が実り、真理子さんは日本学生音楽コンクール東京大会小学生の部で第2位を獲得するのです。(しかも翌年には同コンクールで、全国1位を取っています。)
当人にとっては、只々大変の一言だったようですが、読む側としては結構胸のすくお話しでした。(というより身につまされるお話しと言いましょうか・・・)
しかも、そのコンクールに向けた練習方法が興味深いのです。
文子さんがとった方法です。
まず同じ曲の楽譜を2冊用意します。
その一冊に、同じ系列のテクニック&音符の並びをクレヨンで色分けします。
さらにその中のいくつかのフレーズを記号分けし、それらをカードに写し取ります。
そしてそれら一つ一つを猛練習し、自分のものとしていきます。
最後に、その分解バラバラにした楽譜を繋ぎ合わせて元に戻し音楽にしていく・・・
という練習方法です。
実は私も、発表曲に限って初歩の生徒さんにこの分解楽譜を作成しお渡ししています。
時には2拍分だけ取り出してカードにすることもあります。
手間暇はかかりますが、生徒さんの注意が一音一音に向かうので、仕上がりを考えると手は抜けません。
しかし主婦である文子さんが、それを考案し実行に移し結果を出したということには驚きを隠せません。
正に母の愛、ですね。
大らか且つ懸命を良しとする家風で、三兄弟が持てる才能を存分に伸ばし育っていった千住家のお話し。
読みたい方、お貸ししますよ〜。