モンクールのプログラムの中から、今回ご紹介するのは、シューマン作曲「トロイメライ」です。
夢想(すること)、想像(すること)といった意味を持つ「トロイメライ」は、13曲からなる小品集「子供の情景」の中に収められている1曲です。
「子供の情景」とは、シューマン28歳、まだ独身の頃に作曲された曲集で、後年友人に宛てた手紙にもあるように “子供心を描いた大人のための作品“です。
その中でも「トロイメライ」は、聴く人の郷愁をかきたてずにはおかない名曲で、シューマンの代表作ともなっています。
作曲家シューマンです。
音楽室でお馴染みの肖像画ですね。
ロマン派の作曲家です。
ご存知の方もおられるとは思いますが、シューマンにはいくつもの有名なエピソードがあります。
例えば、初めはピアニストを目指していたシューマンが、自ら発明した「葉巻の装置(指の訓練のための機械)」なるもので手指が動かなくなってしまい、ピアニストを断念して作曲家に転向したこと。
ピアノの恩師ヴィークの娘でありピアニストでもあったクララと恋に落ち、ヴィークの反対にあいながらも4年に及ぶ裁判沙汰の末結ばれたこと。
他にも、精神を病んだシューマンがライン川に身を投じ、その後亡くなるまでの2年間精神病院から出ることがなかったなど枚挙にいとまがありません。
特にクララと結ばれる辺りからのお話は、映画「愛の調べ」で知ることができます。(と言っても映画ですから、多分に脚色されているとは思いますが)
この映画では、シューマン本人より、8人もの子供を育てながら、それでもピアニストとして逞しく生きた妻クララに焦点を当てています。
さらにシューマンとクララ、2人の人生に深く関与した作曲家ブラームスも登場します。
シューマンへの尊敬心を胸にシューマン家の門を叩いたブラームス。
そのブラームスとシューマン夫妻の友情関係は、やがてブラームスのクララに寄せる想いによって、微妙に変化していきます。
特にシューマンが亡くなってからのクララに対するブラームスの献身は、愛なくしては語れません。
映画の終盤にも、思いあまったブラームスがクララにその想いを打ちあける場面が出てきます。
所は夕暮れの戸外のバー。
「人生を共にしたい」、と募る想いをブラームスはクララに告げます。
その言葉に心を動かされるクララ。
「yes」と応えそうになるその瞬間、どこからか流れてくるヴァイオリンの調べ。
それは、今は亡き夫の作品「献呈」でした。
クララに気がついた楽士が気を利かせて演奏したのです。
そして「献呈」は、結婚の時シューマンから贈られた思い出の曲でした。
我にかえったクララは、改めて亡きシューマンへの愛に生きることを心に誓うのでした。(あくまでも映画のお話しです)
クララです。
美しい人ですね。
そのクララに想いを寄せるブラームスです。
う〜〜〜〜〜ん・・・
と、この写真を見て興ざめした皆さま、こちらをご覧あれ。
落差の激しい若き日のブラームスでありました。(笑)
ところでこの映画の冒頭には、クララがコンサートで演奏する場面が出てくるのですが、そこには何とも奇妙な光景が映し出されています。
と言いますのもクララが演奏している最中、なんとクララの斜め後ろに父親ヴィークが座っているのです。
しかもただ座っているのではなく、後ろから「クレッシェンド〜」やら「集中するんだ」だの声をかけるのです。
本当に当時はこんなことがまかり通っていたのでしょうか。(ステージパパを演出しているのかしら?)
間近で「集中するんだ」なんて言われたらかえって集中できませんよね。
とは言えこの映画、クララの演奏の吹き替えをルービンシュタインがしているため、かなり聴きごたえのあるものになっています。
又このコンサートのアンコールで、クララは父親ヴィークの「ラ・カンパネラを弾きなさい」という提言を振り払い、当時まだ無名だったシューマンの「トロイメライ」を演奏しています。
そして映画の最後、喪服姿のクララがアンコールに応えて演奏した曲、それも心に染み入る、けれどどこか寂しげな「トロイメライ」だったのです。